― 松陰神社通り商店街におけるバリアフリーの取り組み ―

松陰神社通り商店街では、平成16年度から平成18年度にかけて、東京都「ユニバーサルデザイン福祉のまちづくり推進モデル事業」の対象地区として、道路整備や店舗のバリアフリー化など、誰もが利用しやすい商店街づくりが進められました。この取り組みは、商店街、地域住民、行政、障害当事者の方々が集まり、誰もが安心して利用できる道路や商店街のあり方について検討しました。この取り組みの特徴は、単に道路を整備するだけではなく、実際に利用する人の意見を取り入れながら、「どのようなまちなら誰もが楽しめるのか」を地域とともに考えた点にあります。
一方、商店街の道路や店舗を、単に「段差をなくす」「設備を整える」だけでは、誰もが安心して利用できるまちにはなりません。研究室では、その計画段階から地域の方々との意見交換やワークショップに参加し、実際に利用する人の声を反映した道路空間や商店街環境の改善について検討しました。
道路構造から考えるユニバーサルデザイン


松陰神社通りの大きな特徴の一つが、道路構造そのものを見直したユニバーサルデザインです。
一般的な道路では、雨水を処理するために道路の両側に側溝を設けることが多く、その結果、店舗出入口との間に段差が生じやすくなります。そこで松陰神社通りでは、排水を道路中央に集める構造を採用しました。これにより、店舗前の段差を小さくすることができ、車いす利用者、ベビーカー利用者、高齢者、足元に不安のある方など、誰もが店舗へ入りやすい歩行空間を実現しました。
また、店舗前と道路空間が連続することで、歩行者が安心して歩けるだけでなく、商店街らしい開かれた空間づくりにもつながりました。
利用者の声を反映した道路整備




道路整備では、設計者や行政だけで決めるのではなく、実際に利用する当事者の意見を重視しました。
松陰神社通りの道路整備は、区内の多事例と同じく「利用者の声を聞く」ことから始まる、参加型のまちづくりのプロセスで進められました。整備前にはテスト道路を設け、車いす利用者や視覚障害者の方々に実際に歩いてもらい、点字ブロックの位置や舗装の状態について検証しました。その結果、商店街の道路幅に合わせた誘導ブロックの配置や、歩きやすさと景観に配慮した舗装が実現しました。一方、視覚障害者用ブロックは、半分の幅になりましたが、その使用する製品まで実験道路において当事者参加で検証され、単断面の狭い道路条件を加味して、基準の半分の幅のリーディングラインを用いることになりました。
ハード整備から、まちの使い方づくりへ




松陰神社通りの取り組みは、道路整備だけではありません。たとえば、視覚障害のある方にも商店街での買い物を楽しんでもらうため、店舗前で店主の声による商品紹介を聞くことができる「音のウィンドウショッピング」を実施しました。ラジオを利用して店舗情報を聞くことができる仕組みにより、目で見るだけではない新しい商店街体験を提案しました。
商店街では、障害のある方や高齢者への理解を深めるため、店舗関係者を対象としたエスコート研修も行いました。店舗前に連絡先を表示するなど、困ったときに安心して利用できる仕組みづくりにも取り組まれていました。
研究室では、こうした取り組みと並行して、年に一度のおまつりにブースをだして、こうした取り組みの宣伝と、まちの困りごとや危険なところについての情報を集めて、今後のまちづくりに向けた情報を収集しました。
商店街の取り組みは、整備された空間を地域でどのように使い育てていくところまで続きます。
道路整備後に見えてきた新たな課題

道路整備によって、誰もが歩きやすい空間は実現しました。
しかし、時間が経つ中で、新たな課題も見えてきました。そのひとつが、誘導ブロック上への自転車駐輪です。道路空間の「使われ方」に関する課題です。これらは単純に禁止すれば解決する問題ではありません。商店街の活気や買い物の楽しさを維持しながら、誰もが利用しやすい空間をどうつくるか。
研究室では、商店主や地域の方々との対話を通じて、その解決方法を検討しました。
路上駐輪場社会実験
禁止ではなく、共存できる道路利用へ


道路上の駐輪問題については、「置いてはいけない」という規制だけではなく、利用実態を踏まえた解決策を検討しました。
そこで、買い物客が多い時間帯に合わせて、道路中央部に仮設の駐輪スペースを設ける社会実験を実施しました。研究室のメンバーは、実験期間中、買い物客の利用しやすさ、歩行者空間への影響などを調査しました。その結果、適切な場所に駐輪スペースを設けることで、歩行空間を確保しながら、商店街利用者の利便性も維持できる可能性が示されました。
また、実験を繰り返す中で、当初は単純な賛成・反対だった商店主の意見も変化し、「条件付きなら賛成」「工夫すれば共存できる」というように、対話を通じて理解が深まっていきました。

研究室の関わりは、この社会実験でいったん終わりとなりました。その後、商店街では、道路空間をより魅力的に使う新たな取り組みも生まれているようです。「ふれあい おかみさんDAY」では、路上にはみ出した看板を置くのではなく、各店舗が店前の敷地部分に黒板でおすすめ商品や店舗情報を紹介するものです。これは単に「看板をなくす」という取り組みではありません。店主とお客さんとの会話を生み出し、商店街のにぎわいと温かさを育てる取り組みと考えます。

本取り組みは、「元気でやさしい松陰神社通り商店街」によるものであり、松陰神社通り商店街振興組合や商店主・地域住民・障害当事者・高齢者のみなさんなど、多様な主体との協働により進められました。