地域を知り、地域を考える活動の原点
研究室では、地域の方々や子どもたちと一緒に、地域を歩き、調べ、考える活動に取り組んできました。その原点となったのが、世田谷区池尻地域で取り組んだ「四世代遊び場マップづくり」です。
1980年代につくられた「三世代遊び場マップ」を受け継ぎ、現在の子どもたちの遊び場や地域の魅力を調査しました。地域住民、PTA、児童館、大学が協力しながら、世代を超えて地域の記憶と現在の子どもの生活を重ね合わせる活動を進めました。
この活動をきっかけに、研究室では、地域を対象として研究するだけではなく、地域の人々とともに調査や活動をつくる取り組みを進めるようになりました。

1 遊び場マップづくり
世代を超えて、地域の遊びを記録する
子どもたちにとって、地域は単なる通学路や生活の場ではなく、遊び、発見し、人との関係を育む大切な場所です。
三世代遊び場マップは、木下勇先生らによる都市環境の変化を遊び場から見つめる手法です。参考文献によると、「子ども、親、祖父母世代の遊び場環境の変化を3枚の地図を並べることでわかりやすく把握できるマップ」であり「1980年代に子どもと街研究会が東京都世田谷区太子堂で行った方法である。「三世代遊び場マップ」は、楽しい気分で語られた遊びの記憶をマップに落とし込んでいくことで、人間と環境の関係を改めて見直していくことができる。また、マップに書ききれない遊びの思い出・記憶は、「三世代遊び場図」としてまとめられ。人間と環境の豊かな関わり合いの「パターンランゲージ」として掲載されている。」とあり、いまでは全国でマップ作りが行われています。
さいしょに、三世代遊び場マップを作成した太子堂で、25年がたったところで、四世代遊び場マップづくりをしよう、という声があがりました。活動には、木下勇先生をはじめ、地域のまちづくり協議会、児童館、地域住民、子育て中の保護者など、多くの方々が参加しました。そこに、太子堂のまちづくりにも関わりのあった研究室も参加をさせていただくことになりました。今の子どもたちの遊び、過去の子どもたちだった親世代や祖父母世代の遊びをヒアリングして、四世代目遊び場マップをつくり、三世代遊び場マップとみくらべることできるようになりました。
子どもの視点から地域を見る。話を聞くことだけでなく、実際にいっしょに街のなかを探検したりすることもありました。サンマ(三間)という言葉があります。遊びの空間、時間、仲間です。大人の目、大人の体では、気づくことのないまちの魅力や課題を発見することができました。
参考文献 寺田光成, 木下勇:特集活動報告「三世代遊び場マップ」から「三世代遊び場づくり」へ ─地域の記憶をつなぐ役割としての遊び場─, 農村計画学会誌,38巻(2019)4 号, p. 464-465, 2020




2 せたがやクエスト
子ども自身が地域を冒険し、発見する
四世代遊び場マップの完成を記念して、2009年3月14日、池尻児童館を拠点に「せたがやクエスト(せたくえ)」を実施しました。
せたくえは、完成したマップを展示して終わるのではなく、子どもたちが実際にマップを手にまちへ出て、地域そのものを遊び場として体験する一日型の冒険プログラムです。
企画の中心を担ったのは、中高生を中心とするT&Iリーダーチーム。遊びとまち研究会、池尻児童館、地域で活動するさまざまなリーダーグループが加わり、子どもたちを迎えました。資料では、午前中に館内でゲームを行って冒険への期待を高め、午後には班ごとにまちへ出て、四世代マップを使いながらT&Iが仕掛けた「試練」に挑戦する構成として計画されています。
午前は、児童館の中で仲間になり、冒険の準備をすすめます。子どもたちは、まず児童館内で、初めて会う仲間やリーダーと一緒に遊ぶためのゲームを行いました。
いろいろな人とじゃんけんする「勝利の勝負ゲーム」、名前とポーズをみんなで覚える「勇者のポーズを決めるゲーム」、だるまさんがころんだをアレンジした「宝物が転んだゲーム」、そして午後のプログラムにツながらう「池尻ウサタ物語」や、「池尻遊び場宝物マップ」や冒険に使う衣装の工作など。
昼食後には四世代遊び場マップについて説明し、T&Iが制作した「せたがやクエストムービー」を上映。ここから物語の世界に入っていきます。
午後は、四世代マップを持って本当のまちへ。せたくえのストーリーは、「大王ウサタが野菜カードを使って街を征服しようとしている。大王より先にカードの裏のスタンプを集め、街を救おう」というもの。子どもたちは班ごとに四世代マップを持ち、児童館を出発します。
冒険は、まちのいたるところにある「試練」を順番にクリアしながら進みます。試練1 文字ジグソーパズル:児童館内でパズルを完成させると、最初の行き先「池尻神社」または「たぬき公園」が分かります。試練2 暗号を解け!:池尻神社またはたぬき公園で暗号を解き、次の目的地「三宿の森」を見つけます。試練3 ユニフォームを探せ!:まちの中に散らばったT&Iリーダーを探し出し、スタンプを3つ集めます。3つ目を手に入れると、次の目的地「ひょうたん池」が明らかになります。試練4 地図文字ゲーム:ひょうたん池では、地図の中から文字を探すゲームに挑戦。野菜カードを完成させて、池尻児童館へ戻ります。
最後は集めた野菜カードで、温かいスープをもらいます。班ごとに一日を振り返り、「勇者カード」を受け取って冒険が終わります。
当日は小雨の混じる天候でしたが、20名を超える子どもたちが参加しました。天候を見ながらの実施となりましたが、午後には予定していたとおり屋外へ出て、三宿の森やひょうたん池など、実際のまちを舞台にしたゲームにも取り組むことができました。児童館の中で始まったゲームが、そのまま地域の道路、公園、緑地へと広がっていく。子どもたちは地図を手に仲間と相談しながら次の場所を探し、最後まで冒険を楽しむことができました。
この「せたくえ」をつくったのは、中高生のリーダーたちです。大人がつくったものではありません。
もともとは、四世代遊び場マップ完成イベントで、マップを持ってまちあるきをしよう、という話でした。しかし、それではありきたり。なにより大人のイベントにしかなりません。子どもたちによる子どもたちのためのイベントにしよう、と考えました。
せたがやクエストを迎えるまで、T&Iリーダーチームのみんな「どんな冒険にしたら子どもたちが楽しめるか」を考えるところから始めました。企画を考え、物語の設定をつくり、脚本を書き、映像を制作し、ゲームを考え、スタンプカードやマスク、地図などの道具も準備しました。大人からT&Iメンバーへのお願いは、「企画も脚本もおまかせ」です。若いリーダーたち自身が企画の中心であったことが分かります。
それを支えてくださったのが、池尻児童館のみなさん、そして遊びとまち研究会のメンバーでした。小学生のために、中高生・大学生たちが、自分たちで考えて作りあげた最高の一日を届けてくれました。せたくえは、四世代遊び場マップを使ったイベントであると同時に、そうした世代を超えた活動の場となりました。
T&Iリーダーチームのみんな、池尻児童館のみなさん、そして活動を一緒に支えてくださった橘さんに、改めて感謝します。








3 子ども110番の家調査
子どもの視点から、地域の安全を考える
地域を知る活動は、地域の魅力だけではなく、安全について考える活動へと広がりました。2010年には、「子ども110番の家」が実際に子どもたちに利用できる環境になっているのかを調査しました。この調査には、T&Iのメンバーを中心に結成した大学生チームRRRが現地調査を実施してくれました。
小学生へのアンケート調査では、「子ども110番の家」の存在を知っているか、ステッカーの意味を理解しているか、危険を感じた時に実際に利用できるか、について調べました。
調査の結果、低学年ほど認知度が低く、1年生では約半数がステッカーを見たことがないことが分かりました。一方で、高学年になるほど認知度は高まりました。
また、利用できない理由として、ステッカーが見えないだけでなく、家に入りにくい、家の中に人がいるかわからない、など、制度を利用する子ども側だけでなく、110番の家の側にも課題があることが明らかになりました。
四世代遊び場マップ、せたがやクエスト、子ども110番の家調査。これらの活動に共通しているのは、研究者が地域を一方的に調査するのではなく、子どもや地域の方々と一緒に地域を理解し、課題を発見していく姿勢です。
子ども自身が地域を歩き、発見し、考える。地域の大人たちが子どもの視点から地域を見直す。こうした取り組みを通じて、研究室のその後の「子どもの安全」や「まちづくり」に関する研究活動へとつながっています。




活動支援
「子ども110番の家」調査は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)
研究開発領域「犯罪からの子どもの安全」
研究開発プロジェクト「計画的な防犯まちづくりの支援システムの構築」
(研究代表者:山本俊哉 明治大学理工学研究科教授)の支援を受けて実施しました。
受託:国士舘大学 寺内研究室
事務局:明治大学 山本研究室
